ベンチャーマインドこそが老舗の伝統!進化を続ける「青柳総本家」の立役者にインタビュー(後編)
「しろ くろ 抹茶 上がり 珈琲 柚子 さくら」「山かいて山かいて池ひとつ~」と聞けば名古屋人なら誰もがメロディを思い出す、青柳ういろうやカエルまんじゅうなど名古屋を代表する菓子を作り続ける青柳総本家さん。140年以上の歴史を誇る老舗菓子舗がここ数年新しい試みに次々とチャレンジしています。中でも「カエルのミルク風呂」や「ケロトッツォ」はSNSでも大注目。
令和の時代に老舗菓子補がなぜ新しい取り組みを行うのか?。そこには老舗だからこその伝統とチャレンジ精神がありました。将来を見据えた取り組みの秘密について取締役の後藤稔貴様、営業企画室広報担当主任の木下美幸様にお話を伺いました。
[前編はこちら]
―― さて、直近の大ヒットといえば「ケロトッツォ」ですね。最初にSNSで拝見したときには正直「やられたー!」と唸ってしまいました。話題の「ケロトッツォ」の開発経緯についてお聞かせ下さい。
後藤 もともとはカエルまんじゅうのアレンジレシピとして木下が考えたものです。SNSに投稿したらすごく反応がよく「商品化して欲しい」という声もたくさん頂いたんですよね。それならば商品化しよう、絶対にやろうと決めて、商品としての開発をスタートさせました。
開発期間はほぼ1ヶ月、ものすごい短期間でハイスピードの開発でした。
―― レシピとして1つ作るのではなく、商品としてたくさん作るとなると別の難しさがありますよね。それを1ヶ月で進めたというのは相当大変だったのではないでしょうか。
後藤 正直とても大変でしたね。味の調整もさることながら、そもそも当社では冷蔵の商品を扱っていなかったんですよね。売り場に冷蔵ケースもないですし、生産や配送をどのような体制で進めるかも未知数だらけ。こんなに急ピッチで進めて大丈夫かなと言う不安はありました。
作るのも全て手作業になりますので、生産量がどうしても限られてしまいます。
―― なるほど。それで守山直営店とKITTE名古屋の2店舗だけの扱いになっているんですね。パッケージも作らなければいけないですし。
後藤 急な立ち上げだったのですが思いのほか良いデザインのパッケージが出来て、すごくありがたかったです。
―― さらにはういろうの分野でも「珈琲味」「ゆず味」を復活されています。これはどのような経緯で復活を考えられたのでしょうか・
後藤 「珈琲味」「ゆず味」については、「青柳のCM」で皆さん覚えて頂いていますし、やはり青柳のアイデンティティーだと考えていました。ここを復活させることで、これを皮切りにいろいろとチャレンジしていこうと決めていたんです。これがきっかけになってお客様とのコミュニケーションが生まれればいいなと。
実際、お客様からも「昔好きでした」とか「食べて見ておいしかったです」というようないろんな声をお聞かせ頂きました。特にコロナ禍と重なった時期でもありましたので、本当にうれしかったですしグッときましたね。
2020年10月から当社でもSNSをはじめたのですが、その最初のキャンペーンとしても「珈琲味」「ゆず味」を選びました。そこでもたくさんのうれしい声を頂きましたし、SNSがあったからこそこれだけの声を聞かせてもらうことが出来たんだなぁと思っています。
それと同時にやったことが「棹のういろうの大きさを半分にする」ということでした。一本のういろうは食べきれないし、お客様にとってういろうのマイナス体験になってしまうのではないかと。
―― そうですね……。家族も少ないですし、正直一本だと手が出しづらいなと思っていたのは正直なことです。
後藤 研修期間で店頭に立っていたときからお客様に言われていましたし、いつかやらなければいけないなと思っていました。そこで「珈琲味」「ゆず味」を世に送り出すときに半分サイズへの切り替えを行いました。今は全てのういろうが半分のサイズになっています。より長くういろうを楽しんでもらうためへの取り組みですね。
―― なんと、全て半分サイズに切り替わっていたんですね! ういろうを買うときの悩みが「食べきれなかったらどうしよう」でしたので、半分ずつ食べられるのはものすごくうれしいです!
木下 昔ながらの棹ういろうがお好きな方もいるので、そう言う方からはお叱りの声もありました。ただ、それでも喜んで頂けている方が圧倒的に多いです。
後藤 現在の青柳では、棹ういろうの売上げは正直低いんです。しかし、コロナ禍になって分かったことは、棹ういろうは売上げが落ちないんですよ。自宅用として根強い固定需要があると改めて分かりました。だからこそそう言う方のためにより美味しさを保てるように、楽しんでもらえるようになればと考えました。
―― これもまた時代に合わせた大きな変化ですよね。さらに、ういろうでは初音ミクとのコラボ商品の販売にも取り組まれています。こちらについてもお話をお聞かせ下さい。
後藤 きっかけはCBCラジオへの出演でした。その時にCBCラジオの営業さんから「実は70周年なんですよ。何か一緒にできませんか?」とお声がけ頂きまして、その時に「キャラクターが初音ミクなんですよ」と。正直最初は「大丈夫かなぁ」と戸惑いましたね。キャラクターものはこれまで取り組んだことが無かったですし、二つ返事で「ありがとうございます」にはならなかったですね。
それもあって、最初は初音ミクを商品として大きく打ち出そうとは考えていませんでした。ちょこっと載っているぐらいでいいかなと。しかし、デザイナーさんにパッケージ案を作ってもらったらドカンと大きく初音ミクが載ったものが上がってきたんです。それを見た瞬間「これだ!」となりました。
―― 非常にインパクトのあるデザインですよね!3本並べると一つのイラストになるところもすごい良いデザインだと感じていました。
後藤 そこから「初音ミクのファンの人たちに喜んでもらえるにはどうすれば良いか」「もっと面白がってもらえるためにどうしようか」と考えはじめました。味の着想はCBCの担当の方から「初音ミクといえばネギなんですよ」と言われたことですね。ただ、社内での不安は大きかったのも間違い無く、一度は社長からも「これは辞めた方がいいんじゃないか」とストップが出るほどでした。
面白さ重視でネギの風味を強くする方向性もあったかもしれませんが、やはり「青柳総本家としておいしいものを提供しよう。残さず食べられるものにしよう」という考えで味のバランスを整えて「ネギ味」が生まれました。「ピスタチオ味」も同じようにおいしく食べてもらえるように改良を重ねて販売しています。
せっかくやるんだったらお客様にとことん楽しんでもらいたいので、店頭の特大パネルやパッケージなど、お菓子そのもの以外の部分でもお客様に楽しんでもらえるような形を強く意識して商品設計を進めていきました。初めての経験でしたがお客様からの反応も良く、SNS等でも「全然おいしい。食べられる」などの声が聞かれました。
その中で一番刺さったのが「青柳さんだから間違い無いよね。ネギでも美味しいわ」という投稿。方向性が間違って無くて良かったなと思うと同時に、青柳ういろうとしておいしいものをちゃんと提供していかなければならないという責任を再認識しました。また、青柳ういろうについてお客様から良いイメージを持ってもらえているんだなと改めて気づかされた商品です。
―― 今の時代に合わせて進化を続けられている青柳総本家さんでが、後藤さんとしての手応えは如何でしょうか?
後藤 間違ってはいないかな、と思っています。社内で一番大きかったのは「ケロトッツォ」によって、商品が売れていくところが会社全体に共有できたことですね。ケロトッツォで社員たちがかなり忙しくなったんですけど、それでも社員からは文句を言われず、それぞれの持ち場で頑張ってやってくれているのが行動として感じられています。社内のコミュニケーションも活発になりましたし、なおかつお客様も喜んでくれている。チャレンジしていくことが大切なんだと改めて気づかされました。
―― この秋も新商品を出されるとのことですが、その中でも「ひとくち生ういろう 甘酒オレンジ」が大変気になりました。こちらはどのような商品になりますでしょうか?
後藤 「ひとくち生ういろう 甘酒オレンジ」は、日本酒「白老」を作られている澤田酒造さんから分けて頂いた純米酒粕を使ったういろうになります。澤田酒造さんとは以前に「白老」を使ったういろうを作ったことがあり、そこからご縁を頂いて作ることとなりました。
木下 こちらは守山直営店、KITTE名古屋店、ジェイアール名古屋タカシマヤ店での販売になります。
―― どんな味がするのか大変楽しみです。さて、青柳総本家さんが考えるういろうのおいしい食べ方、面白い取り合わせなどがあればぜひお聞かせ下さい。
木下 飲み物だと結構お酒との相性が良いんですよね。日本酒に良く合うかなと思います。
後藤 個人的にはウィスキーに合わせるのがいいかなと。お酒以外だと紅茶がかなり相性が良いです。また、ういろうは腹持ちが良いのでちょっとした軽食に向いているんですよね。なので実は「朝食にういろう」というのがオススメなんです。
―― なるほど! 確かにお腹も満たされますしちょうど良いエネルギーになりますね。
後藤 ヨーグルトにういろうを乗せるのもいいですね。あとは「焼いてバターを塗る」でしょうか。
木下 焼くととても美味しいんですよ!フライパンに米油やオリーブ油などひいて、1面にしっかり焼き色がつくまでちょっと我慢してもらって焼いてもらうときれいに仕上がります。最後にバターをぜひ。焼き上げると表面がカリッとして中がもちっとなってすごく美味しいんですよ。しろういろうがオススメです。
―― その発想はありませんでした! これは早速やってみます!
木下 カエルまんじゅうもトースターで焼いて、口をちょっと切ってバターをパクッとくわえさせたりすると可愛くて美味しいんですよ。
―― それもすぐやってみたいですね! それでは、最後にういろうを愛する全ての皆様へのメッセージをお願いいたします。
後藤 大きな目標は、「ういろう」の認知度を上げていってういろうの良さをもっと知ってもらい、「ういろう=青柳ういろう」になるようにしていくことです。また、カエルまんじゅうもよりもっと知ってもらえるように、お客様が笑顔になるような打ち出しをしていきたいと考えています。
もっともっと「お客様を笑顔にしていける会社」にしていきたいというのが今の考えですね。日本にもう一度ういろうを広めたら、世界にもチャレンジしていきたいですね。いつか世界の人の誰かにとって青柳総本家のういろうが無くてはならない存在になっていけるようになりたいと考えています。
当社の商品を食べてもらって元気になってもらったり、辛いときに少しでも笑顔になってもらえるように頑張って参ります。これからもご声援よろしくお願い申し上げます。
―― ありがとうございました。
名古屋で長く愛されている青柳総本家。インタビューを通して見えたのは老舗のイメージとは全く異なる「ベンチャーマインドで時代の最先端を進んで行く」姿でした。
140年以上の歴史の中で、青柳総本家は必ずしも全てが順調に進んできた訳ではありません。特に戦時中には物資不足のあおりを受けてういろう作りを辞めなければいけない事態にもなったそうです。
しかし、戦後になって4代目がういろう作りを再開し、さらには革新的な様々な取り組みを次々と打ち出したことで、青柳総本家が起点となってういろうが「名古屋名物」となりました。青柳ういろうのロゴは「柳をつかもうとジャンプし続けるカエルの姿」がモチーフ。苦難を前にしても何度もチャレンジを続けることでいつかは柳をつかみとれる、青柳総本家に受け継がれてきた精神がロゴマークには込められているそうです。
令和の時代にますます進化する青柳総本家、これからも目が離せません。
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