文具業界の辻口博啓になりたい/職人と事業家の両立
最近、ふとしたきっかけでどうしてもパティシエの辻口博啓さんのことを知りたくなってしまいました。
私が思うクリエイターの理想形にとても近い気がしたからです。
あまりに気になってしまったので、その日のうちにweb上で読めるコラムや対談記事を読み漁り、書籍も何冊か買って読んでしまいました。
余談ですが、やっぱりAmazonは便利ですね。どの書籍も中古だったので、ほぼ送料だけで購入できました。
すぐにできる情報収集を一通り行い、気分はすっかり辻口博啓マニア。どうして辻口氏に自分の理想像を重ねたのか、辻口氏はどういうスタイルで現在に至ることができたのか、ある程度理解できたと思います。思った通り、辻口氏は私にとってクリエイターの理想形とも言える人物でした。
本気で語ろうとするととてつもなく長くなってしまうのですが、今回は私が思うクリエイターの理想形に重なっていた2点について話したいと思います。
1、次々に新しいことに取り組む
辻口氏の肩書といえば「パティシエ」ですが、その多岐にわたる活躍ぶりを考えると、その一言で表して良いものかと悩まされます。例えば、辻口氏は自身プロデュースの美術館を開いたり、製菓専門学校を立ち上げたり、ベトナムで茶園を拓いたり、総合リゾートをプロデュースしたりなどなど。自分ブランドの洋菓子店を全国に展開するパティシエは他にもいるでしょうが、ここまで幅広い事業を手掛けている方は他にいないでしょう。
私の話をすると、現在、尚貴堂の商品は革小物だけですが、今後は木製や金属、プラスチック製の雑貨にも取り組みたいと考えています。もちろん、「パティシエ」という一本の軸が通っている辻口氏と同じように、私は「生活を改善するニッチなツール」という軸がぶれない範囲で。大手メーカーよりも軽いフットワークで、世に魅力的な商品を提供し続けたいと思っています。
2、職人と事業家の両立している
この点が、私にとって最も衝撃的でした。
ものづくりに携わる職人は事業が苦手、というイメージが私の中にはあります。そのため、私は、職人と事業家のどちらに傾倒しようかと悩んだものです。そんな時に辻口氏を見つけ、大変衝撃を受けました。辻口氏は双方を高いレベルで両立しているではありませんか。まさか両立が可能なものだとは思ってもみませんでした。
さて、辻口氏は、世界一のパティシエとして名を馳せています。優れた技術や感性を持った職人であるというだけではなく、事業展開にも結果を出しているためにそう呼ばれているのです。
パティシエにとっての一般的なサクセスストーリーの流れは、「自分の店を持つ」→「全世界に自分ブランドのお店をたくさん出す」というものだと思います(勘違いしていたらすみません…)。自分一人が限界まで製品を生産したとしても、売上という面では必ず限界が来るもの。多店舗で自分ブランドを展開しようとするならば、各店舗に所属するパティシエにも、本店と同じものが作れなくてはなりません。そのため、パティシエは自分のレシピを標準化し、どの店舗でも同じ味を楽しめるようにするまでが仕事なのです。
これを私に当てはめると、私は大元の文具を一つ作る→量産は他の職人に任せる→量産した商品を多くの文具店に置いてもらう、といった流れになるでしょう。漠然とこういった流れにしたいとは思っていましたが、改めてパティシエについて考えることで、この流れをハッキリと目指せるようになりました。
例えば、作る技術がない人が商品開発をするとなると、技術や設備を持った職人と共同で作ることになります。しかし、それでは完成までの時間がかかり過ぎます。職人は大抵他にも仕事を抱えているため、注文を受けてからとりかかるのに順番待ちの時間を要します。製品開発の際は、その試作品修正のやりとりを何度も繰り返すものなので、発売までにはかなりの時間がかかってしまうのです。
逆に、自分でしか製品を生産しない職人は、試作品なんてすぐに作ってしまうので一つの製品の完成は早いでしょう。しかし、自分が一日に生産できる数量には限界があるため、どうしても売上という面では頭打ちになりがちです。職人は事業が苦手という一般認識は、ここから来るのではないでしょうか。
私が取りたい道は、この二つの中間です。辻口氏もこの中間を上手く取れているから、次々に新しい事業を手がけることができているのでしょう。私も、自分ではスピーディーな製品開発を行い、生産自体は他の職人に任せて事業の拡大を図りたいものです。
以上、少々長くなってしまいましたが、それほど辻口氏が私にとって衝撃的な存在であったかということを表しているということでお許しください。これでも語りたいことをごっそり削ったのです。
もし、あなたが辻口氏について詳しく知りたいと思うのならば、文芸春秋社の「スーパーパティシエ辻口博啓」がオススメです。2015年発汗の1冊なので、常に新しいことに取り組んでいる辻口氏の活躍を、比較的新しいところまで知ることができます。冒頭画像の一番左がそれです。
ライター:大橋 尚貴 について
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