名古屋の大須に、ナゴヤのトキワ荘と呼ばれている漫画家の聖地があるのをご存知でしょうか? 普通の漫画喫茶とは違う「漫画空間」。店長の内藤泰弘さんさんにインタビューを行いました。
大須にある「漫画空間」。店長の内藤泰弘さん
「読める」「描ける」「広がる」の3つのキーワードがコンセプト
ー漫画空間とはどのような場所でしょうか?
漫画空間
漫画空間は、2010年5月に「読める」「描ける」「広がる」の3つのコンセプトでオープンしました。
「漫画を描く」敷居を下げ、漫画好きな人、漫画家を目指す人、漫画家さん、漫画に係る全ての人達のための「ふれあいの場」の空間です。
ただ漫画を読めるだけじゃないのですね。
他では聞いたことのない形です。
「読める」というのは、普通の漫画喫茶とは違って、とくにレア物に力をいれていて、絶版になったものや廃刊になった古い漫画なども読めたりします。
新刊はあまりおいていないんですが、古いものこそ読みたい人がきますね。
手塚治虫の「新宝島」の復刻版など、他の漫画喫茶ではお目にかかることができないような、レアな漫画も読むことができます。
大物・レア物・絶版・復刻版コーナー。その隣には、有名な漫画家さんのサインとイラストが飾られています。
漫画が「描ける」。これが一番の特徴ですね。漫画を描く際に必要な道具がすべて揃っています。アナログでも描けるしデジタルでの作業もできます。
店内の漫画を描くスペース
漫画を描く道具が一式揃っています。
デジタルでの漫画作成も可能だそう。
「広がる」というのは、漫画を描く人たちが集まってきますので、描く人同士が知り合える交流の場になっています。漫画版ライブハウスですね。
この場所に集まってくる皆さんが言うのは、「なかなか周りに描く人がいない」と。職場だったり身近でも、漫画の話はなかなかできなかったり、描く人なんて誰もいないから、一人でコツコツずっと描いているだけの人も多い。
最近は、TwitterやSNSなどで繋がることのできる場所は色々ありますが、昔はそういうのもなかったので、描く人が交流できる場所を作ろうと思ったのが一番ですね。
描いた漫画を他の方に読んでもらうこともできるのだそう。
ー愛知県内から通われる方が多いですか?
愛知県内、岐阜、三重、 後たまに来るのが静岡や滋賀からみえますね。 大阪からもいらっしゃったりもします。
そんなはるばる遠くからも!漫画を描かれている方からしたら、聖地のような場所なんですね。
ーこの大須にしようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
漫画専門の古書店「まんだらけ」もあるし、若者が集まるサブカルな街みたいなイメージがあって、この大須にしようと思いました。
ー色々なイベントや講座も開催されているんですよね。
「子ども漫画講座」「ネーム・原稿個別指導会」「ネーム見せよう会」 など、イベントや講座などをおこなっています。コロナ渦で今はなかなか集まりができてはいないですが、有名な漫画家さんを呼んでイベントなども行っていました。
店内に飾られている、有名な大御所漫画家さんたちのサイン。愛知在住の鳥山明先生のサインもあります!
不定期に講座も開催しています。「背景講座」「漫画にも役立つ美術解剖学講座」「ネーム講座」「ストーリー講座」「デジタル講座」などですね。各講座の先生はそれぞれプロの方や専門学校の先生など一流の先生にお願いしています。
そんな一流の先生方に教えていただく機会は、なかなかないですよね。すごいです!
残りの人生を後悔せずに、本気で向き合いたい。
会社を退職し、漫画に関わる人生へ
ー「漫画空間」を創ろうと思った経緯はなんだったのでしょうか。
私自身、子どもの頃から漫画を描くのが好きで、大学時代は漫画研究会に入っていました。漫画空間を立ち上げる前は、教育関係の出版社で、人事や指導関係、営業などをしていました。
47、48歳頃に、前の会社で新規事業で保険事業をやることになって、私も営業で電話商談などを行っていました。話す相手はほとんどが高齢の方々ばかりだったのですが、電話でお話していて、すごく人生に満足されている方もいれば、後悔ばかりする方もいました。そういう生の声を日々聞くわけですよ。その時40代後半の私からすると、それは20~30年後の自分の姿なわけです。
その時思ったのが、果たして定年までこの場所で働いてていいのかなと。人生、元気で働けるのはあと 20~30 年と思ったら本当にやりたいことをやりたいなと思い始めました。本当にやりたいことが漫画に関わる仕事だったんです。
本気で残りの人生を生きようと思ったときに浮かんだのが、漫画に関わる人生だったのですね。
漫画喫茶は世の中にいっぱいあるけれど、漫画を描く人たちを育てる場所を作れないかなと。漫画喫茶で、漫画を読める、描ける、漫画を描く人たちが集まれる場所を作れたら、すごく面白いんじゃないかなと思い、色々と調べ始めました。その当時は、全国調べてもそういう場所はどこにもなかったんです。
やっても報われるかは分からないけれど、誰もやったことがないこと、面白いことをやってみようと思ったのがきっかけです。
会社の同僚や周りの人みんなに「やめとけ」と言われたのですが、退職金をもとにして始めました。
ー「漫画空間」を立ち上げて、大変だったことは何でしょうか?
最初は全然お客さんが来なくて、お客さんがゼロの日が何日も続きましたね。
そこから段々とお客さんの口コミと紹介でこの場所のことが伝わり、変わった店ということで取材にきていただいたりして、認知度が広がっていきました。苦境を常連のお客さんに支えていただきました。
ー漫画家の棚園正一先生とも長いお付き合いだとお伺いしました!
棚園正一先生の漫画を紹介してくださる内藤さん
棚園くんとは、このお店をやるという時に、子供向けも漫画講座をやってもらえる人がいないかなと探している中で出会いました。ひょんなことから知り合った子を通じて紹介してもらうことになり 、お店のオープンの2ヶ月前に出会いました。長い付き合いですね。
棚園くんは、今も漫画空間に通ってくれています。
漫画を描く人たちが繋がり、切磋琢磨しあう場所
ー漫画空間さんからデビューされた漫画家さんはどれくらいいらっしゃいますか?
ここでデビューした子は30名くらいいますね。20~30代の子が多いです。
漫画初心者向けのチャレンジ講座出身の漫画家さんもいるんですよ。絵は描けるけれど作品を完成させたことがないという理由で講座に参加された子もいて、講座内で作品を完成させて、すぐに持ち込みをし、大賞を取れた子もいます。
漫画空間さんに通われて、活躍されている漫画家さんの著書。Twitterでバズっている有名漫画家さんたちもたくさんいらっしゃいます。
同じ大学の漫画研究会 の2人で揃って通い、そこからずっと2人で描いていた子もいますね。その後2人とも出版がきまり、単行本も同じようなペースで出していますね。
お二人同時に出版されるというのは、すごいことですよね。 一緒に切磋琢磨する仲間という感じですね。
そういうのが原動力になることも多いんじゃないですかね。 あいつには負けたくないとかね。
漫空のお客さんは漫画の上手な人が多いので「漫空線隊画レンジャー」という漫画の請負の仕事もしています。
広告代理店などから広告漫画制作の案件を漫空の作家さんに依頼したり、アシスタントの仕事を紹介したりしています。漫画を描くためだけの場所じゃなく、漫画が実際に仕事になっていく場所でもありますね。
漫画空間さんのコミュニティだからこそ、ですね。
漫画が描けるだけでなく、夢を実際に仕事にしていくことができる実践の場にもなっているのですね。
Twitter に漫画をあげてバズっている子も結構いるのですが、毎週決まった曜日にここにきて、バズり方 の勉強会などもやったりしていますね。
現代の漫画家さんは、Twitterなどでかなり認知度が上がり出版に繋がっている方も多いように思います。バズり方の勉強会、かなり覗いてみたいですね。
この場所で、漫画家さんたちが団欒や勉強会をしているそうです。
夢は108人の漫画家さんが、この場所からデビューすること
ー「漫画空間」を続けてきて、よかったと思うこと、嬉しい瞬間はなんでしょうか?
漫画空間のおかげで漫画を描き続けられました、と言ってもらえるのが一番嬉しいですね。
実際、ここがなかったら漫画をやめていた子も結構いると思うんですよね。描くことを続けるというのが一番難しい。描くことを続けることのできる場所でありたいですね。
ーこれから先の夢や目標はなんでしょうか?
もっともっとたくさんの人が、ここからデビューしてくれることですね。漫画空間出身の漫画家さんが 108人生まれることがまずは目標かな。
笑顔で話される内藤さん。名古屋から漫画文化へ貢献、素晴らしいです!
108人というのは、中国の代表的な長編口語小説『水滸伝(すいこでん)』からきています。
私は水滸伝が昔から大好きで(笑)108人の豪傑が活躍する武勇伝なのですが、その大豪傑たちの活躍のように、漫画業界でも「漫画空間」から飛び出した108人の漫画家さんたちが活躍していってほしいですね。
ー人生を全力で漫画に関わる方たちにかけている内藤さん、本当にカッコいいです。まさに「ナゴヤのトキワ荘」!またお伺いいたします。ありがとうございました!
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