おじいちゃんとリンゴ。
おじいちゃんに折ってた千羽鶴が、まだ千羽にならない冬の夜中におじいちゃんは逝きました。
おじいちゃんはすい臓ガンでした。
「最近、胃がおかしくての……」
そう言ってたおじいちゃん。
全然治らないから検査をして見つかった。
「あと1年くらいです」
と医者に言われたと両親から聞いたときは、信じられなかった。
だって、全然普通に元気だったから。
あと1年経ったら、おじいちゃんがいなくなる……?
そんなことあるわけない、だっておじいちゃんめっちゃ元気やんか。
うちのおじいちゃんは無敵だ、と根拠のない自信のような感情を持っていた。
戦争に行って、帰って来たおじいちゃん。
私が死ぬときまで一緒にいられると、なぜかそう思ってた。
けれど、1年が近づくにつれ、それは現実になった。
激痛が時々襲うようになり、そしておじいちゃんは起きられなくなった。
その頃、私のお腹の中には次女がいた。
出産予定日がおじいちゃんの誕生日だった。
……それは嬉しかったし、なんだか切なかった。
おじいちゃんに会いに帰ったら、もうおじいちゃんは痩せきっていて、背も高い大きな人だったのに、とっても小さくなって寝ていた。
何をしてあげたらいいか分からなくて、
「おじいちゃん、なんかして欲しいことない?」
と聞いたら、
「…そうやな、じゃリンゴを剥いてすりおろしてくれるか?」
と言った。
嬉しかった。
もうほとんど食べられなくなっていると聞いていたから、まだ食べられるんだ!と、喜んでリンゴを剥いてすりおろして持って行った。
「すまんけどな、食べさせてくれるか?」
初めておじいちゃんに食べさせてあげた。スプーンにすくってひとくちずつ。
「うまいのぉ」
そう言ってくれた。
でも、3回スプーンを運んで、まだまだ残ってるのに「もうええわ、おおけぇよ(ありがとうよ)」と。
その後、しばらくしたらとてもとても苦しい顔になって、
「もうええから、部屋出とれ」
と言って唸っていた。
「おじいさんな、食べたら余計痛くなるみたいなんや」
と母から聞いて、
私が聞いたから、食べてくれたんだ。
痛くなるのに。きっと分かってたのに。
私に孝行させてくれたんだ……。
リンゴを見たら、あの日のおじいちゃんを思い出す。
きっともう味なんかしなかっただろうに
「うまいのぉ」
そう言ってくれたおじいちゃん。
私が子供の頃、いつも膝に乗せて食べさせてくれたおじいちゃんに、最初で最後に食べさせてあげた、すりおろしリンゴ。
自分で考えても分からなくなるときは、
「おじいちゃんだったら、どう言ってくれたんだろう?」
と思うことがよくある。
……あぁ、おじいちゃんに会いたいなぁ。
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